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1.はじめに

 近年、Robotic surgeryが世界的に注目され始め普及しつつあるが、特殊なトレーニングに加え手術器機やそのメンテナンスは、現状では極めて高額である [1-5]。前立腺や心臓の手術等の極めて狭く小さな術野においては、細径多関節鉗子類によるRoboticsの長所が十分にいかされ、一部で保険収載も始まった。一方、腹腔内での胃や大腸の手術においては、大きな手術野で腸管の術野展開が必要で、欧米人に比し小さ目の日本人の体格では各種のロボットアームの干渉等が指摘され、消化器外科特有のダイナミズムと愛護的操作等に付き解決すべき問題点もあげられている。

 我々は、2007年の7月から大腸癌の手術にHand-assisted laparoscopic surgery (HALS)を導入し、現在までに500症例以上経験してきた。腹腔鏡により通常の開腹手術では、従来観察が困難であった骨盤底深部や膀胱下部から前立腺後面など盲目的操作に近い処置が拡大近接視/共有視効果と共にモニター下で安全に操作可能となった。さらにHALSでは50-60mmの小切開先行となるが、1) 触診/触覚に加えて左手操作が完全に温存され, 腫瘍径が大きく重い腫瘍でも愛護的かつ円滑に手術操作が可能で、2) 開腹手術の延長線上で手術時間が短い、3) 熟練に時間を要さない、などの長所があげられる。本邦では大腸2領域以上の拡大大腸切除に加え肝外側区域切除や脾摘など同時性多病巣切除術に関する有用性も報告されている。

 あまり議論されていないがHALSの欠点は、触診・触覚が温存されているが故に電気焼灼デバイスやシーリングデバイスの使用時に、1) 手指が著しく熱い、痛い、2) 左手関節や左肩が痛い、重苦しい、怠い、疲れる、3) どうしても35mm以下の切開創にはならない、4) 術者の左手の動きがほとんど分らない(ビデオに映らない)等があげられる。特に私は当初、左手指に生じるピンポイントの火傷に苦しみ、自分が到らないとはいえ入浴時の辛い思い出が甦る。左手を小さくするために毎日、入浴時に左手の第1指と第5指を自分で圧迫マッサージしMPジョイントが互いにくっ付く (亜脱臼?) ようになったが、どうしても皮膚切開45 mm (グラブサイズ7.5) では手が入らなかった。さらに、HALS翌日の左肩痛に加え何故か腰痛と左下肢痛までが出現する有り様であった。余程、変な体位で体を捻り手術を行っていたのであろう。

 これらの問題点をほぼ全て解決可能であるのがロボットハンドである [6-8]。つまり、従来のHALSを30-35mm程度の小切開創から挿入し、小児程度の5指多関節型のヒューマノイド ロボット ハンドを用い次世代型のロボットHALSとして臨床応用可能かどうかを検討している [9-13]。電気通信大学(情報理工学研究科、知能機械工学専攻 教授; 横井浩史研究室、横井プロトタイプ)で開発されたヒューマノイドハンドをさらに改良を加え(横浜国立大学理工学部機械工学・材料系学科、准教授;加藤 龍研究室、機械システム工学科システム統合工学専攻 修士課程1年吉田 宏輝)、動物実験ラボにて豚腸管の結腸・直腸切除術や脾摘術を近日中に予定している[14-15]。ヒューマノイドハンドは極めて効率よく腹腔内での操作が可能であると考えられるが、現状では腸管の把持力と骨盤底での操作性に検討課題がある。

 私が外科医を志した研修医の頃、手術は左手で行うものである、と上司や先輩から厳しく指導されておよそ30年が過ぎた。そしてHALSが報告され、既に20年以上が経ち、次世代のHALSはロボットハンドによるRobo-HALSに展開できればという考えに至った。切開創は直径20-30mmで手元のボタンを押すと腹腔内で二つに折畳まれたヒューマノイド ロボットハンドがパチンと一瞬で開き、完全な左手となり手術が始まる。指先には電気メスや吸引口が装備されており、示指先端からはアルゴンビームの焼灼が使用可能となっている。それも触診・触覚付きであるとなるとマンガの読み過ぎであろうか・・・。

 いつも無理難題を夜遅くまで議論していただき、電気通信大学の横井研究室の皆様、(株)クラフトワークスの伊藤社長、高精度の特注手袋の作製に御尽力頂いているアソシエCHACO・栗田佐穂子代表はじめ関係のスタッフの皆様方、本当に有難うございます。この場を御借りして心から深く感謝の意を申し述べさせていただきます。

 尚、本稿はHALS用手補助腹腔鏡下手術の実際(向井執筆担当分; コラムp50-51, 2014)を(株)南江堂の許認可・承諾を得て、一部加筆・修正したものです。
 
 



参考文献 
     
1)   Delaney CP, et al: Comparison of robotically performed and traditionallaparoscopic colorectal surgery. Dis Colon Rectum 46: 1633-1639, 2003.
     
2)   D’Annibale A et al: Robotic and laparoscopic surgery for treatment of colorectal diseases. Dis Colon Rectum 47: 2162-2168, 2004.
     
3)   Kariv Y, et al: Robotics in colorectal surgery. Minerva Chir 60: 401-416, 2005.
     
4)   Pigazzi A, et al: Robotic-assisted laparoscopic low anterior resection with total mesorectal excision for rectal cancer. Surg Endosc 20: 1521-1525, 2006.
     
5)   Pietrabissa A, et al: Grasping and dissecting instrument for hand-assisted laparoscopic surgery. Surg Endosc 16: 1332-1335, 2002.
     
6)   高山俊男、ほか。  腹腔鏡下手術のための組み立て式ハンド、日本ロボット学会誌 25: 478-484, 2007.
     
7)   大嶋律也、ほか。 腹腔内組立式3指5自由度ハンド、日本ロボット学会誌 26: 453-461, 2008.
     
8)   Oshima R, et al: Assemblable Three-Fingered Nine-Degree of Freedom Hand for Laparoscopic Surgery. International Conference on Intelligent Robots and Systems, IEEE/RSJ, 5528-5533, 2009.
     
9)   横井 浩史、ほか。個性適応機能を有する筋電義手に関する研究、POアカデミージャーナル、15: 83-92、2007。
     
10)   加藤 龍、ほか。適応機能を有する運動意図推定システム-高機能ロボットハンドと日常生活支援。 人工知能学会誌、23: 326-323、2008。
     
11)   加藤 龍、ほか。筋電義手使用による運動機能再建の評価。 日本ロボット学会誌、27:102-108、2009。
     
12)   横井 浩史、ほか。筋電義手のための五指ハンド制御技術。 自動車技術、64:65-69、2010。
     
13)   中村 達弘、ほか。五指ハンド筋電義手のための制御システム。 日本磁気学会学会誌、6:206-212、2011。
     
14)   吉田宏輝(横浜国立大学), 關 達也(電気通信大学), 横井浩史(電気通信大学),加藤 龍(横浜国立大学), 向井正哉(東海大学). 用手腹腔鏡下手術のための5指型ロボットハンド・アームを用いた手術支援システムの開発. 第33回日本ロボット学会学術講演会講演論文, 1J1-06, 2015, 東京.
     
15)   向井正哉、加藤 龍、吉田宏輝、横井浩史、伊藤寿美夫、横山大樹、宇田周司、長谷川小百合、野村栄治、幕内博康。医工連携による小型人型ロボットハンドによる腹腔鏡下手術の開発、第71回日本消化器外科学会総会(徳島), 特別企画4, 2016.7.14-16.
 
 


 
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