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HALS
用手補助腹腔鏡下手術の実際(DVD付)
  
    
 
 消化管手術においては腹腔鏡下手術の地位は確固たるものとなった。これまでの道のりはけっして平坦なものでなく、各施設でのさまざまな経験と工夫から現在のほほ標準化された方法に至っている。それでも細長い鉗子のみで行う手術には術式や体型によって物理的、あるいは時間的に困難な症例が存在し、開腹移行を強いられることもある。
HALS(hand-assisted laparoscopic surgery)はけっして新しい手技ではないが、これを経験したことのある外科医は意外と少ないのではないか。人間の手の5本指は多機能でさまざまな動作が可能であり、鉗子2本から3本分の働きをする。しかし、腹腔内に手を入れるとそのボリュームによって視野が妨げられることもあり、HALSを効率よく行うには、どこから手を入れ、どのように手を使うか、というテクニックやコツの習得が必要である。
本書は本邦初のHALS専門書として、総論から各術式の各論、さらにDVDに実際のテクニックが収載されている。とくに左手の使用については、さまざまなテクニックが紙面のみならずビデオにも収められていることがありがたい。各術式の各論では筆者別にポート位置、左手の挿入方向、術野の様子が場面(Scene)ごとの多数のシェーマで解説され、要所にはポイントアドバイスも記載されていて、大変理解しやすく構成されている。またコラムには貴重な経験や苦労話も折り込まれており興味深い。
私の思師であるJ. Milsom氏は、以前大腸全摘術を通常の腹腔鏡下手術で行っていたが、HALSで行うようになって劇的に手術時間が短縮したことを語っている。私自身も肥満の大腸全摘症例ではHALSを選択することもあり、このテクニックを知っているかどうかで手術時間は大きく変わってくる。
HALSの経験のない外科医、またHALSを見直したい外科医に大変参考になる1冊である。この手があったか、と気づかされることであろう。

埼玉医科大学国際医療センター消化器病センター 山口茂樹
消化器外科 第37巻第13号 2014.12 P1946
 

 
 内視鏡外科手術を安全・確実に施行できるようになるために、完全腹腔鏡下手術に固執することなく、必要に応じて開腹手術に移行する勇気をもち、症例によっては、小切開創から腹腔内に片手を挿入するハイブリッド腹腔鏡下手術、いわゆるHALSの技術を選択肢としてもっておくことは専門医としての心得である。最近では、ほとんどの内視鏡外科手術が標準術式となり、さらにHALSであるからこそ安全で、かつスムーズにできる手術があることがわかってきた。こうした時代背景に伴って、本書がHALSの教科書として出版されるのは、時宜を得たものといえる。
本書は、初心者から上級者まで有用な情報が満載で、手順を短時間に確認して手技のキーポイントを修得できるように配慮されている。DVDがついているのも実践を重視している証拠でありがたい。目に焼きつけて、イメージトレーニングをするのに便利である。
総論には、具体的に準備すべき器具やセットアップの仕方と、基本手技や左手の使い方が詳しく述べられている。各論では、さらに左手の5指の微妙な使い方、周囲組織の圧排から剥離する際の組織背側からの指の動かし方など、手指1本1本についての役割が、理由とともに簡潔に述べられている。また、手術術式、症例、手術のポイント、操作手順、必要な器具、セットアップ、ポート基本配置・手の挿入位置、手術操作が全章にわたって記載されている。特に目につくのは、ピンクで囲われたポイントアドバイスである。ここでは、執筆者の経験に基づいたキーポイントが解説されている。HALSの経験者にしか知りえないコツが随所に見受けられ,心配りの行き届いた書である。また、図や写真が全ページ2/3以上を占め、豊富に用いられているので、生き生きと手術の場面が目に浮かんでくる。
HALSの適応となる症例は、一般的には腹腔鏡下手術がむずかしい症例が多い。たとえば、「肝硬変合併牌機能亢進症に対する牌臓摘出術」などは、従来開腹移行率が高く、最初から腹腔鏡下手術の適応としていなかった手術である。本書の執筆者は、HALS研究会のアクテイブメンバーが中心で、いずれもHALSの豊富な経験を有する内視鏡外科医である。その専門は、肺、食道、胃、大腸、肝胆膵牌、泌尿器と多岐にわたり、HALSが適応となる胸腹部領域をすべて網羅している。
本書は、内視鏡外科医で、将来にわたり専門医として活躍し、ワンステップ上の手術をめざしたい先生にぜひおすすめしたい書である。

九州大学先端医療医学講座教授 橋爪 誠
外科 Vol.77 No.2 2015.2 P233
 

 
 HALS(用手補助腹腔鏡下手術)とは片手を腹腔内に入れて行う腹腔鏡手術で、本書はHALSに関するはじめての本格的な指導書である。代表的な術式の細かい手術シーンをイラスト化してわかりやすく解説してある。さらにDVDもついており、即戦力として役に立つことは間違いない。しかし、HALSという手術をどのように考えるかは外科全体の大きな問題であり、それによって本書の価値は大きくかわってしまう。
外科学とは挑戦の学問であり、一方では究極の実学でもある。近年、複数の施設で腹腔鏡手術の安全性を疑問視させるような事例があった。難易度の高い腹腔鏡手術に挑戦することは将来の患者への福音かもしれないが、その過程で現在の患者に犠牲を出しては何の価値もない。HALSは片手が腹腔内に入っているので、確実に完全腹腔鏡手術よりも安全かつ容易である。一方で低侵襲やテクニックという点では、開腹なのか腹腔鏡なのか、中途半端でどっちつかずという印象はぬぐえない。確かに、HALS(用手補助)がなくても完全腹腔鏡でほとんどの手術は完遂できる。しかし完全腹腔鏡へのこだわりのために外科医が過剰なストレスを感じたり、患者を危険にさらしていないか、外科医は常に自問しなければならない。また、HALSのほうがやりにくいというのは詭弁である。HALSは実学である以上、場面によって完全腹腔鏡と用手補助を使い分けたり、創から直視操作をしたり、一番行いやすい方法を採用する手術である。用手補助のみにとことんこだわるということはありえない。
腹腔鏡手術の全貌がみえてきた現在、逆にHALSが見直されている。筆者も食道癌手術の胃管作成はHALSで行っている。大きな理由は、再建臓器である胃を鉗子でつかむことにより微細な血管に損傷をきたしているのではないかと危倶するからである。完全腹腔鏡でできなくはないが、やはりHALSよりは時間と神経を使う手術になる。完全腹腔鏡という技術的な達成感よりも、患者のリスクと外科医の負担を減らしたほうがよいと思っていることがもう一つの理由である。食道癌手術は7〜8時間に及び、術後合併症のリスクが高く、リンパ節再発のリスクも高い。その中でわずか2〜3cmの傷の大きさの違いはあまりにも小さい(完全腹腔鏡でも体外胃管作成のため5cm程度の切開は必須である)。その集中力と時間を胸部や頸部の操作にもっと注ぎたいと思っている。
これから外科医は減少する時代になり、少人数で多くの手術をこなさなければならなくなるであろう。ダ・ビンチがポルシェで、腹腔鏡がベンツならば、HALSはトヨタである。もちろん夢はポルシェであるが、現実はトヨタが一番、手術もそんな時代がきそうな気がする。少しでもHALSに興味をもった先生方に強くすすめる必読の書である。

大阪大学消化器外科教授 土岐祐一郎
胸部外科 Vol.68 No.5 2015.5 P370
 
 
 
 



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