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3. 目的と方法
 
 我々は大腸癌の手術に用手補助腹腔鏡下手術(Hand-assisted laparoscopic surgery; 以下HALS)を導入し,500症例以上経験してきた.HALSは安全/確実/簡便にして低コスト,完全鏡視下手術と定型的開腹手術の中庸的な優れたオプション手技として欧米や中東では現在でも盛んに行われている.しかし,1)電気焼灼機器やシーリング機器の使用時に手指が著しく熱い,2) 35mm以下の切開創にはならない,3)左手関節や左肩が痛い,4)術者の左手の動きが分かりづらい(カメラに映らない)などまだまだ改善の余地があり,その対応策が望まれる.そこで本研究では腹腔内に挿入する術者の左手の代用として,自分の手のように操作できる小児程の5指-多関節型の人型ロボットハンドを挿入し,次世代型ロボットHALSとして臨床応用可能かどうかに付き検討を開始した.現在,目覚ましいロボット技術の進歩により外科手術におけるロボットハンドを用いた報告は多数散見されるが,そのほとんどが2 or 3 fingered typeである.外科手術において重要な人体の組織や臓器を愛護的に掴む,摘む,握る,牽引するといった手指機能を,尖った2-3本指型のロボットハンドで行うのは手術操作,機能及び訓練に限界や制限が生じることが容易に推測される.そこで,手に不自由のある人の手を代替するロボット義手(5指多関節型ロボットハンド)を開発し,世界をリードしてきた電通大; 横井研究室,横国大; 加藤研究室と協力し,これら5指多関節型ロボットでHALS手技が可能になるよう改良したロボットハンドシステムを共同開発し,HALSとして臨床応用が可能かどうかを検討している.

 本研究では,3年間の研究期間内で,術者の左手の動きに合わせて操作できる小児程度の5指多関節型ロボットハンドを開発し,動物実験を通じて次世代型ロボットHALSとしての臨床応用への可能性を明らかにする.
 
 
 
マスタースレーブ型5指多関節型ロボットハンドの開発;
 
 これまで開発してきた義手用ロボットハンドを改良し,臓器を愛護的に把持,圧排,押し広げを行う手指運動が可能な運動自由度をもつワイヤ駆動による5指多関節型ロボットハンドを開発し,切開創が小さくなるよう細い掌部の機構の設計を実現する.また術者前腕部に装具を装着し固定する方法を明らかにする.さらに術者左手の動きで自分の手のようにロボットハンドを操作できるように,術者の左手指関節角度と手首関節角度(回内外・掌背屈・橈尺屈)を計測するデータグローブとその値からロボットモータを制御するシステムを開発する.これにより大きな術野展開や疲労軽減させるため人の手の可動域を上回る関節可動やパワーアシストを実現できるスケール変換を可能にする.
 
 
 
 
 
食用鶏肉を用いた擬似環境下でのロボットによるHALS手技実現の可能性の検討と改良;
 
食用鶏肉を擬似臓器と見立て,HALS手技に必要なロボットハンド仕様(運動自由度,力,重量など)や制御手法(必要可動域や倍力制御)を明らかにする.
 
 
 
動物実験モデルを用いた臓器摘出試験による臨床応用への可能性の検討;
 
動物を用いた臓器摘出試験を通じて従来臨床的に行ってきたHALSをベースに,次世代型ロボットHALSに適した術式を明らかにする(東海大学研究推進部, 動物実験承認番号161063, 2016).最終的には東海大学医学部・医の倫理委員会や各種Institutional Review Boardの承認等を経て,人への臨床応用/適用までの課題を整理し,準備を進める.
 
 
 
 本研究は,現在まで培ってきたロボット工学を駆使した技術と経験に基づいて,世界初で日本発信となるロボットハンドを用いたロボットHALSが臨床応用可能か否かを検討することに独創性がある.また,小児大の小さいロボットハンドであるため, 現状HALSの約1/2の切開創でありながら, 360度回転可能な関節可動域や強力なパワーアシスト効果に期待ができることが大きな特色である.さらに,操作習熟度は、従来のHALSの延長であるため,全く操作が異なる完全ロボットシステムの1/2-3のラーニングカーブに短縮可能であると考えられる.本研究成果はロボットハンドとしての機能を極限まで改良し,種々の環境下での遠隔操作やTele-medicineにまで広く応用可能であるものと確信しており,今後の期待度は極めて大きい.
 
 


   
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